■ 世界中でうつ病、アルツハイマー型認知症にかかる人が急増中、決して他人事ではありません!
筆者が医師になった10数年前は、精神科、心療内科の中核の病気といえば統合失調症(当時は精神分裂病)といわれ、統合失調症診療について避けて通れず、その治療の専門家になることが精神科医としての使命と感じていました。当時は、うつ病や認知症の患者さまが昨今のような増加の一途をたどり、自分が日々の認知症診断に関わっていくとは全く予想だにしておりませんでした。世界中で増加してマスコミの注目度の高い病気であるうつ病、アルツハイマー型認知症について触れてみたいと思います。
うつ病は、大うつ病性障害、感情障害、単極性大うつ病などといろんな言われ方がされています。生涯有病率(調査時点までの生涯にその病気にかかっている患者の割合)は、6.5%、一生涯に10〜15人に1人がうつ病を経験するといわれています。男女比でみると女性が男性の2倍罹りやすい病気です。最近の報道でうつ病罹患者は世界で約3.5億人いると伝えられました。WHO(世界保健機関)は、2030年には、『健康な生活に影響を及ぼす疾病』の第1位になると予測しています(ちなみに2位は虚血性心疾患、3位は交通事故です)。以前に『うつ病は心の風邪』といわれた時期がありましたが、これは現在では数日で治る病気ではなく、ゆっくりと時間をかけて治す病気であり、軽々しい病気の表現は不適切であったと反省されています。うつ病は、心や気持ちの持ちようといった問題でなく、セロトニンなどの神経伝達物質をはじめとする脳の機能代謝異常が原因として起こっている“脳”の病気です。近年自殺者の多くにうつ病が関係していると考えられ、政府も非常に力を入れて取り組んでいる病気の1つです。2週間以上続く不眠、抑うつ状態がみられる場合、うつ病の可能性も考えられますので、精神科、心療内科、メンタルヘルス科などと標榜されている専門医療機関への相談や受診をお勧めいたします。どの疾患も同じですが、早期発見、早期治療が病気の改善率を上げますので、長期間の我慢はせず、おかしいと感じたら、お早目に専門医療機関へご相談ください。
認知症は、高齢化社会が進む以前は脳血管性認知症(脳卒中が原因)の割合が多かったのですが、高齢化が進むにつれ変性型(脳萎縮型)の認知症であるアルツハイマー型認知症が増加して、いつしか脳血管性認知症を超えて認知症疾患ナンバー1の病気となりました。アルツハイマー型認知症患者さんの脳には原因とされる異常蛋白(タウ蛋白)の増加、神経原線維変化(老人斑など)がみられ、こういった脳の変化は、最近の研究において発病前の40歳代中頃から徐々に脳内に増えているといわれています。1998年に本邦初のアルツハイマー型認知症治療薬のドネペジル塩酸塩が処方できるまで、認知症の治療薬は、ありませんでした。昨年からは、本邦で新たに3種類(ガランタミン臭化水素酸塩、メマンチン塩酸塩、リバスチグミン)のアルツハイマー型認知症治療薬が処方できるようになりました。これらの薬剤は、病気自体を治す力はなく、脳機能を活性化することによって病気の進行を遅らさせ、日常生活が円滑に送れるようにしていきます。未だ根治的な治療方法は、確立されていません。世界中の研究機関で治療薬を開発している段階です。現在の認知症の治療(在宅患者さんの場合)は、上記薬剤での治療及び介護保険を利用したデイサービス通所などのリハビリテーションの2本柱がスタンダードな治療方法です。生活に支障を及ぼす物忘れは、加齢による健忘とは異なり病的な認知症が疑われますので、物忘れ外来などを実施している医療機関へご相談下さい。また医療機関へ来院される場合は、診察にはご家族からの情報が不可欠となりますので、ご本人おひとりではなく家族同伴での受診をお願いいたします。