外来で患者さんを診察していると、いろいろなタイプの貧血を発症した患者さんと出会います。皆さんは貧血にいくつか種類があることをご存知でしょうか?今回の一口メモではさまざまな貧血について簡単にご紹介したいとおもいます。
立ち上がった瞬間に目がくらくらして倒れそうになった時、“貧血が起こりました!”と言って患者さんが来られることがありますが、正確にはこの状態は起立性低血圧などが考えられ、医学的な“貧血”とは少し違います(貧血に伴ってみられる場合もありますが)。貧血とは、体を流れる血液の中の赤血球に含まれるヘモグロビン(血色素)が少なくなった状態をいいます。ヘモグロビンは、肺から取り込んだ酸素を全身に運んでいます。貧血のために組織に運ばれる酸素が不足してくるとさまざまな症状が出現してくるわけです。
<貧血に伴ってみられる自覚症状>
- 疲れやすい
- 立ちくらみがする
- すぐに息切れする
- めまいが起こりやすい
- 頭痛がする
- 動悸がする
- 胸の辺りが気持ちが悪い
- 食欲がない などなど
貧血は、赤血球の大きさ(容積)から大きく3つの種類に分けられます。
① 小球性貧血
赤血球の大きさが正常よりも小さくなっている貧血です。代表的なものとして鉄欠乏性貧血があります。若年から中年の女性の方が健診などで貧血を指摘されたときは、まずこの鉄欠乏性貧血ではないかと疑います。鉄は赤血球をつくるために必須の成分で、体内の鉄が不足していると、ヘモグロビンの合成ができなくなり小球性の貧血となります。血液検査から鉄の不足が確認されたら、次に、どのような原因から鉄が不足することになっているのかを検査していく必要があります。次の項目で紹介する出血性貧血が先行(例:胃潰瘍からの出血の持続)して鉄欠乏になっている場合、子宮筋腫などの婦人科の病気がある場合、極端な偏食がある場合、などいろいろな原因がありますので、慎重に診断を進めます。治療は、食事指導に加えて、状態により鉄分を補う内服薬が処方されたり、注射で鉄分を補ったりします。なお、鉄欠乏性貧血と紛らわしいその他の小球性貧血があります(慢性感染症、関節リウマチ、各種の癌などによってみられる貧血)のでこちらも注意が必要です。
② 正球性貧血
赤血球の大きさが正常とほぼ同じ状態の貧血です。胃や腸からの出血による貧血(出血性貧血)などがこれにあたります。出血性貧血が疑われた場合は、まずどこから血液が出ているかを胃カメラなどを用いて急いで確認して、出血を止める治療をすることが大事です。他に、正球性貧血に分類される貧血としては、溶血性貧血(赤血球がいろいろな原因で壊れてしまう病気)などがあります。
③ 大球性貧血
赤血球の大きさが正常よりも大きくなっている貧血です。ビタミンB12や葉酸の不足によって起こる巨赤芽球性貧血という名前の貧血などがこれにあたります。過去に胃の病気で胃を全部摘出している方などはこの貧血がおこる可能性があります。手術をして数年以上経ってから貧血が起こってくることがありますので、胃や腸の手術をされたことがある方は必ず主治医の先生にお伝えしてください。
貧血にはさまざまな原因があり、ときに複数の原因が一緒になって貧血を起こしている場合があります。主治医の先生には、これまでにかかった病気や現在の症状を正確にお伝えして、先生と一緒に根気強くその原因を探っていきましょう。