胃・十二指腸潰瘍は、消化性潰瘍と呼ばれ、酸やペプシンによって胃や十二指腸の壁が障害され、欠損を生じる病態です。危険因子として喫煙、飲酒、コーヒー、薬剤、ストレスなどが考えられていましたが、近年はヘリコバクターピロリ菌 ( 以下ピロリ菌 ) の感染が主な原因であると理解されています。以前には、胃の中は胃酸のため強い酸性で、細菌は生息できないと考えられてきました。しかし1983年、胃粘膜からピロリ菌が分離、培養され、その感染が胃炎や胃・十二指腸潰瘍の成因に深く関わっていることが明らかになりました。ピロリ菌は、らせん状のグラム陰性桿菌でウレアーゼという酵素をもっており、尿素からアンモニアを産生し、胃内の酸を中和し胃内で生息しています。
ピロリ菌の感染経路はまだ、はっきりしていませんが、大部分が経口感染と考えられています。しかし、予防方法はよく分かっていません。日本では若い人のピロリ菌感染は比較的少ないのですが、40歳以上の人の陽性率は80%と高率です。しかし、衛生環境の改善とともにピロリ菌の感染率は著しく低下しています。ピロリ菌に感染していても全ての人がピロリ菌の除菌療法を受ける必要があるわけではありません。前述したように、胃・十二指腸潰瘍の発生、再発にはピロリ菌が大きく関係していることが多く、この様な人がピロリ菌の除菌療法を受けると劇的に良くなることが多くみられ、ピロリ菌除菌が消化性潰瘍治療の根本的治療と位置づけられています。ピロリ菌の診断には、内視鏡検査(胃カメラ)時に採取した生検組織を用いた迅速ウレアーゼ法、鏡検法、培養法と、内視鏡を使わない尿素呼気試験、血清抗体法などがあります。
胃・十二指腸潰瘍の患者さんでピロリ菌が陽性なら除菌療法を行うことがよくあります。ピロリ菌の除菌療法は、2種類の抗生物質と胃酸の分泌を抑える薬の合計3剤を同時に1日2回、7日間服用します。服用後4週間以上経過し、もう一度ピロリ菌の検査を行い、除菌に成功したかどうかを確認する必要があります。ピロリ菌の除菌成功率は、80〜90%と良好ですが、最近は治療に抵抗性をもったピロリ菌が増えてきています。もし除菌に失敗したなら第二、第三の方法がありますので医師にご相談ください。 げっぷ、悪心、胸やけ、胃もたれ感、みぞおちの痛みなどがあったり、胃・十二指腸潰瘍の再発で困っておられる方は一度、医療機関を受診されることをお勧めいたします。もしピロリ菌感染による胃・十二指腸潰瘍なら除菌療法により症状が良くなる可能性があります。ただし、除菌治療が成功しても日常生活の不摂生はやめて、喫煙や暴飲、暴食は控えることが大切です。