百日咳は、特有のけいれん性の咳発作(痙咳発作)を特徴とする急性気道感染症です。母親からの免疫(経胎盤移行抗体)が期待できないため、乳児期早期から罹患し、1歳以下の乳児、ことに生後6 カ月以下では死に至る危険性も高くなります。百日咳ワクチンを含むDPT 三種混合ワクチン接種(ジフテリア・百日咳・破傷風)は我が国を含めて世界各国で実施されており、その普及とともに各国で百日咳の発生数は激減しています。しかし、ワクチン接種を行っていない人での発病はわが国でも見られており、世界各国でいまだ多くの流行が発生している。最近では、香川大医学部で2007年に75名の集団感染事例などの流行がありました。
最近の動向 百日咳は世界的に見られる疾患で、いずれの年齢でもかかるが、小児が中心です。また、重症化しやすく、死亡者の大半を占めるのは1 歳未満の乳児、ことに生後6カ月未満の乳児である。WHO の発表によれば、世界の百日咳患者数は年間2,000 〜4,000 万人で、その約90%は発展途上国の小児であり、死亡数は約20〜40 万人とされ、わが国における百日咳患者の届け出数(伝染病予防法では届出伝染病として全例報告されることになっていた)は、ワクチン開始前には10万例以上あり、その約10%が死亡していました。現在では乳児期にワクチン接種(三種混合ワクチン)により発生数は激減しています。しかしながら、ワクチンの副反応の発現が1970年代にみられ、その間、接種率の激減があったが、現在は生産、精製技術の向上などによって副反応も少なくなり、接種率は向上しています。
年間罹患数の推計値は2000年2.8万人、2001年1.5万人です。また、ワクチン接種による免疫の持続期間は約4 - 12年間といわれています。
病原体 百日咳菌の感染によります。感染経路は、鼻咽頭や気道からの分泌物による飛沫感染、および接触感染です。家族など濃厚接触による場合が多く、また市中において大人の感染が認められます。小児においては予防接種未接種者が非常に危険です。百日咳の発症機序は未だ解明されていませんが、百日咳菌の有する種々の生物活性物質の一部が、病原因子として発症に関与すると考えられています。また、患者さんからの菌の排出は咳の開始から約3週間(未治療の場合)続くので、その期間は他人へ感染させる危険があります。
臨床症状 臨床経過は6日から20日の潜伏期の後、3期に分けられます。
成人で罹患した場合
近年、成人の感染が問題になっています。香川大学での集団感染など、2000年以降、時々集団感染等が散見されます。これは小児期に接種したワクチンの効果が年齢と共に弱くなり、抗体価が下がることによって感染してしまいます。成人の百日咳では咳が長期にわたって持続するが、典型的な発作性の咳嗽を示すことはなく、やがて回復に向かいます。軽症で見のがされやすいが、菌の排出があるため、ワクチン未接種の新生児・乳児に対する感染源として注意が必要です。最近の研究では、2週間以上続くしつこい咳症状の7人に1人が百日咳菌の関与が明らかになったと報告もあります。 また、アデノウイルス、マイコプラズマ、クラミジアなどの呼吸器感染症でも同様の発作性の咳嗽を示すことがあり、診断が難しくなっています。
感染症法における取り扱い(2003年11月施行の感染症法改正に伴い更新)症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、以下の2つの基準を全て満たすものです。
学校保健安全法での取り扱い 第二種の感染症に定められており、出席停止の期間の基準は以下のとおりです。○特有の咳が消失するまで又は5日間の適正な抗菌性物質製剤による治療が終了するまで出席停止となります。
(国立感染症研究所感染症情報センター 多田有希・岡部信彦)ほか文献より抜粋