変形性膝関節症は中高年者に膝痛をきたす主たる原因です。
変形性膝関節症の治療としては、大腿四頭筋をはじめとする筋力訓練、鎮痛薬(内服薬、湿布)、温熱療法、関節注射(ヒアルロン酸)等があります。特にヒアルロン酸関節注射は有効な方法で多くの患者さんの苦痛を取り除いています。
しかしながら関節軟骨が消失した末期関節症と呼ばれる状態になると、治療効果が弱くなったり効果がなくなったりします。そのような場合の変形性膝関節症治療の最終手段として人工膝関節置換術(TKA)があります。
人工膝関節置換術の方法
手術は全身麻酔か腰椎麻酔で行われます。手術室は感染予防のためクリーンルームで行われます。膝のやや内側を15㎝前後切ることが多いですが膝の状態により場所や大きさは変化します。
痛んだ軟骨面をその下の骨と共に切除し、同時にO脚X脚を修正します。
切除したところに金属やセラミックでできたインプラントをセメントで固定し、ポリエチレン製のクッションをはさんで血抜きの管を入れ、縫合し終了です。術後1〜2日で管を抜き、リハビリを開始します。術中術後の総出血はだいたい500〜1000ml
入院期間は施設や術後経過にもよりますが、3〜6週間が多いようです。
両膝の場合は両側同時にする場合もありますが、合併症の発生率の関係で片方ずつ行う施設がおおいようです。
人工膝関節置換術をしていいこと
一番のメリットは膝の痛みがなくなり、歩行がスムーズになること。活動性が上がり、転倒の危険性も下がります。
人工膝関節置換術で起きたら怖いこと
TKAで一番怖いのは感染です。治療に長期の時間がかかり、膝機能や歩行にも大きな障害を来します。最悪の場合、人工膝関節を抜去しなければならなくなることもあります。
またゆるみもおおきな問題で経年性の変化や膝への負荷で骨とインプラントの間にすき間ができたり、ポリエチレン製のクッションが壊れたりします。現在の人工膝関節は約20年の寿命といわれていますが使い方によっては数年でこわれることもあります。そのような場合再置換術が行われることもあります。
患者さんによく聞かれること
1) リハビリがつらいときいている。
人工膝の曲がりは術後3週間でほぼ決定します。手術の傷跡も治るのに2〜3週間かかります。そのため傷が治ってゆっくりリハビリとはいかないのです。傷のある膝を曲げ伸ばしするため術後2週間くらいはつらいリハビリとなります。
2)人工膝関節をすると曲がらなくなる?
正座も可能ですが、みんなというわけにはいきません。曲がる人工膝とするにはいくつか条件があります。
それは
・術前の膝の動き
・使うインプラントと術式(深屈曲対応の人工膝関節)
・下肢の筋力(体を支えられなければいけません)
・本人の気力と努力(一番重要かも)
などですが、その人の状態により曲がりより支持性を優先することもあります。
人工膝関節置換術の適応(どんな人がしたらいいのか)
どのような人が手術の適応かというと変形性膝関節症の末期関節症(関節軟骨が消失した状態)で手術に耐えられる全身状態でリハビリの指示を理解し行える人であれば適応があると考えられます。
さらに医師からの希望をいわせてもらうと、70歳代中頃で下肢筋力が保たれている、内科疾患、歯科疾患はあっても治療コントロールされていることが望ましいです。
これはあまり若いと人工膝関節の寿命から再置換の可能性があること。逆に高齢だと隠れた合併症の可能性が高くなるため注意が必要です。
筋力がおとろえていては手術をしても成績は悪いです。
手術を勧めた患者さんによく『まだ歩けるから』と言われますが、歩けなくなってからでは遅いのです。
糖尿病をはじめとする内科疾患や虫歯の治療は感染予防等合併症の予防に必要です。
非常に簡単ではありますが人工膝関節について書かせてもらいました。絶対にしなければいけない手術ではないですが、よりよく生きるために有効な方法の一つと考えます。
これは大枠の話なので個々の件については近くの整形外科に相談ください。