三豊・観音寺市医師会


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■体内時計と健康

ヒトは誰でも腕時計を持ち、時々時計をみていますが、自分の中に体内時計を持ていることに気付いている人は少ないでしょう。

我々生命体の全ての細胞は体内時計を持ち、その時計機構によって周期性ある「生体リズム(概日リズム)」をしめして生存を維持しています。
生体リズム(概日リズム)をしめす生理機能には、睡眠覚醒、心拍・血圧、体温、血糖などあります。46億年前に地球が誕生し、38億年前に地球上に生命体が生まれ、その後この地球上で生きのびていくために獲得し、進化してきた適応の生理機能が「生体リズム」と考えられています。体内時計を獲得できなかった生物は進化の過程で絶滅していったと考えられます。

植物「おじぎそう」の時計機構の存在はアレキサンダー大王の時代から記載があります。
1972年、哺乳動物の脳の視交叉上核(SCN)に体内時計を持つ時計細胞があることが見出されました。
つづいて、1997年、ヒトの時計細胞の中に時計遺伝子が発見されました。6個の遺伝子(B-mal1、Clock、Per1,Per2、Cry1、Cry2)が中心(コアループ)で、遺伝子DNAの転写→翻訳(時計タンパク合成)→ネガティブフィードバックというサイクルで時を刻んでいます。さらに、時計機構の安定化をバックアップする安定化ループというメカニズムもあります。
その後、時計遺伝子は人体のほぼ全ての細胞に存在する、そして、脳の視床下部の視交叉上核(SCN)にあるヒトの体内時計は「親時計」と言われ、末梢の心臓・血管・肝臓・腎臓から皮膚・粘膜などのほぼすべての細胞に存在する「子時計」と統合・連携している階層構造をしていることまで判明してきました。

しかし、最近になって、「第3の時計(腹時計)」の存在が明らかにされました。
時が経てば空腹を感じて食べる食事も体内時計の針を調節する役割をしています。空腹時間が長いほど針あわせの影響が大きいことが分かってきました。したがって、朝食の効果が最も大であります。2008年にこの腹時計の中枢(親時計)が視交叉上核(SCN)の上方にある視床下部背内側核(DMH)にあることが遺伝子操作実験から明らかにされました。これらの中枢・抹消時計の間の連携は自律神経・免疫・内分泌の各調節系によってなされています。

「親時計(SCN)」のヒトでの機能は睡眠覚醒のリズム形成にあります。
睡眠中枢は前部視床下部の腹外側視索前野(VLPO)にあり、抑制系GABA神経とされている。一方、覚醒中枢は後部視床下部の脳弓付近のオレキシン神経と結節乳頭核に起始するヒスタミン神経の2つの覚醒系の神経細胞が局在して覚醒中枢をなしています。日中の太陽光を受けて覚醒中枢が活性化し、ヒトは活発に活動し、疲労物質が体内に溜り睡眠中枢が活性化され、ヒトは眠りに入って休息し次の日の活動に備えます。この時に太陽光のなくなる夜間のみに松果体から分泌されるホルモンの「メラトニン」が視交叉上核の時計細胞にあるメラトニン受容体(MT1)に働き入眠を誘い深い睡眠(徐波睡眠)をもたらします。もう一つのメラトニン受容体(MT2)に働き時計の針を前進させます。最近このメラトニン受容体作動剤ラメルテオン(ロゼレム・武田)が実用できるようになっております。この時計の針の前進後退すなわち生体リズムの位相の前進後退は、地球の自転リズムの24時間と関係し、ヒトなど昼行性動物は25時間、ネズミなど夜行性動物は23時間の体内時計位相になっています。そして、朝の光を浴びることによって位相が前進し24時間に調整されます。この位相のずれ現象は海外旅行した時の「時差ボケ」で実感できます。また、夕方から夜にかけて光を浴びると位相が1時間後退し、地球の自転と2時間の位相差となり夜間に光を浴びる乱れた生活や夜勤・交代勤務を続けると6日間で地球の位相と逆転することになります。

「自然のリズムに合わせた十分な睡眠は」生命維持・健康のために必要で体内時計機構によって、全ての人が、昼活動し、夜眠るリズム生活をしています。しかし、昼間は意識があって、活動していますが、いったん眠りに入ると、意識はありません。しかし、この意識のない間に疲労が回復し、明日への活力を蓄えます。睡眠は脳波で見て、90分周期の5段階に分けられ、入眠→(1段階→2段階→3段階→4段階→5段階)→ここまでをほぼ5回ほど繰り返して目覚めます。1〜4段階を脳波の波形から徐波睡眠期と言われ、5段階は覚醒時に似た波形ですが、早い眼球運動を伴い、レム睡眠期といわれています。このレム睡眠期に夢をみています。この睡眠の前半の徐波睡眠時に脳下垂体から成長ホルモンが分泌されます。この現象は他の動物では認められずヒトに特徴的であります。この成長ホルモンは子供では文字通り体の成長を促進、成人では損傷した細胞・組織の修復をし体調を良好に維持します。心の面でも記憶や学習の効果を向上します。一生懸命に勉強した後で、どれだけ記憶として残っているかは、学習前後で十分な睡眠がどれだけとれたかによります。特に睡眠中の徐波が重要な働きをすると言われています。さらに、思考・判断力も高め、「アイディアの閃き」などの創造力もよくなります。


われわれの「生活リズムが乱れる、すなわち、「生体リズム」が乱れると下記のような病気をもたらすことが遺伝子操作実験から明らかにされています。

  • 生活習慣病になります。高血圧には時計遺伝子(B-mal1、Clock、Per2、)が関係し、メタボリック症候群には時計遺伝子Clockが関係しています。
  • 糖尿病では、B-mal1、Clock、Per2、が関係しています。
  • コレステロールが高くなることには、肝臓時計と中枢時計の不調和でインスリンが関係するらしいです。
  • 骨が脆くなります。骨は昼間に溶けて夜作りかえられますこの骨のリモデリングにはレプチンと交感神経系と時計遺伝子(B-mal1、Per1、Per2、Cry1、Cry2)が関係しています。
  • 早期老化がおこり寿命が短くなります。血管内皮細胞で産生される一酸化窒素(NO)が関係し、このNOと時計遺伝子(B-mal1、Per2、)が関係しています。
  • 癌との関係、時計遺伝子(B-mal1、Clock、Per1、Per2、Cry1、Cry2)が関係しています。このいづれかに異常があると内臓がんが発生しよい。Per1、Per2は発癌頻度をたかめ、Cry1、Cry2は血液がん(悪性リンパ腫)に関係していることなどが見出されました。

以上の現象から体内時計(生体リズム)は細胞分裂のリズム、DNA障害有無の監視修復、生理機能の円滑推進の監視・管理を担っていると考えられます。

乱れた生活リズムを正し、朝日を浴びて、朝食を十分に食べてよく働くことに健康の基礎があるようです。