疥癬(かいせん)はヒゼンダニというダニの一種が、皮膚の角質層に寄生し、人の肌から肌へと感染する皮膚疾患です。以前から世界的に30年の周期で流行を繰り返してきたといわれていましたが、最近では高齢者施設を中心に、高齢者とその介護者に発症が増え、いまだに発症が続いております。
ヒゼンダニは、雌成虫で体長0.4mm、雄成虫は雌の約3分の2という非常に小さいダニで肉眼では見えません。洋ナシ型の体(顕微鏡下では円形に見えます)に短い4対の脚があり、腹部には横に走るひだが、背部には多数の短いとげのような突起があります。卵は3〜4日経つと孵化して幼虫となり、若虫を経て成虫(雄、雌)となります。
疥癬の病型には通常疥癬と角化型疥癬(ノルウェーの学者が疥癬の症例を最初に報告したのにちなんでノルウェー疥癬ともいいます)があり、寄生数に違いがあります。通常疥癬では雌成虫が患者の半数で5匹以下と少数ですが、角化型疥癬では100万〜200万匹、時に500万〜1000万匹ともいわれるほど多数寄生します。宿主が健康体であれば通常疥癬になりますが、免疫力が低下している場合に角化型疥癬になります。また、通常疥癬では寄生数が少ないため感染力はそれほど強くないですが、角化型疥癬では寄生数が多くきわめて強い感染力を有します。そのため、角化型疥癬では個室隔離などが必要になります。
症状としては通常疥癬は頭部、顔面以外に発症し、赤い丘疹が皮膚の軟らかい部位、すなわち指間、関節屈曲、腋の下、乳房、下腹部、外陰部などに好発し、結節は外陰部や腋の下、肘、臀部にみられ、いずれもかゆみが生じます。角化型疥癬は全身に発症し、手や体の骨ばったところや摩擦を受けやすい部位の皮膚に厚く増殖して、灰色から黄白色の垢がつくのが特徴で、かゆみがないこともあります。
通常の疥癬からの感染の場合は、約1〜2ヵ月の潜伏期間をおいて発症します。
ヒゼンダニが刺したことが理由で皮疹が出現するのではなく、この1ヵ月間は、感染したヒゼンダニが増えるのに必要な期間とヒゼンダニの抜け殻や糞に対する感作が成立し、アレルギー反応が生じるためにかかる期間で、そのために皮疹が出現します。ただ、角化型疥癬からの感染の場合は、一度に多数のヒゼンダニが感染し、増殖に必要な期間が短縮されるため発症が早くなり、4〜5日で発症することもあります。
確定診断は顕微鏡検査で虫体や卵体を確認することです。方法としては注射針でヒゼンダニを取り出したり、メスや眼科用ハサミを用い、角質層を採取した後、顕微鏡で確認します。検出率が高いのは疥癬トンネル(雌成虫が卵を産むために皮膚に潜って移動するために生じた、皮膚表面からわずかに隆起し、蛇行して、白っぽく見える線状の皮疹)で、手関節屈側、手掌、指間、指側面に多く認められます。
治療としては殺ダニ剤を使用します。外用剤としてはイオウ剤(保険適応あり、小児・妊婦に使用可)、クロタミトン(オイラックス、保険適応ないが数年前より保険診療上疥癬に使用して差し支えない旨通達があったので準保険適応。小児、妊婦への広範長期使用はさける)、安息香酸ベンジル(医薬品でない試薬なので、インフォームドコンセントが必要、小児、妊婦への使用はさける)、γ-BHC(農薬の一種で、インフォームドコンセントが必要。10才以下小児、妊婦への使用はさける。また内服のイベルメクチンとの拮抗作用がありイベルメクチン投与時の併用注意)があります。内服薬としては2006年8月21日より殺ダニ効果のある内服薬として日本で保険適応となったイベルメクチンがあります。投与回数は普通の疥癬では1〜2回、角化型疥癬では2回〜数回、投与間隔は1週間が適当です。しかし体重15Kg以下の幼少児、妊婦、授乳中の方は投与不可です。なお、イオウ剤として市販のイオウ入浴剤を勧められたりすることがありますが殺ダニとしての効果は十分でなく、かぶれを起こすことがありますので現在は使用しないことがほとんどです。
管理上の対応ですが、通常疥癬であれば、同室で布団を並べて寝ない、長時間肌と肌を接触させない、寝具や衣類など肌に触れるものの共用を避けるぐらいで特別な注意は必要ありません。
しかし角化型疥癬の場合は感染力が強く、隔離が必要になります。衣類、シーツは毎日交換し、50℃以上のお湯に10分以上浸した後に洗濯してください。入浴は毎日してください。寝具、マットなどは掃除機で表面を丁寧に掃除してください。治療開始時に居室や共同使用していた部屋に殺虫剤を散布します。また、治療終了時にも念のため殺虫剤をもう一度散布しましょう。